顔面神経麻痺(ベル麻痺)の後遺症
【患者】50代 男性
【主訴】
顔面部(口周り)の痙攣、軽度のこわばり感
(初診時:柳原法30点、FaCE Scale47点)
【施術回数】 5回
【通院期間】 2か月(現在も継続中)
【来院までの経過】
・一昨年11月頃に顔面神経麻痺(ベル麻痺)を発症。
・病院にて薬物療法による標準治療を受けた結果、顔面部の筋肉が動くようになった。
・しかし、次第に顔のこわばり感、痙攣、疲労感などが生じるようになり、後遺症が出現した。
・今年の3月、後遺症の軽減を目的にボトックス注射を受け、数週間様子をみたが期待する効果が得られなかった。
・ボトックス注射により、目の周りの痙攣は減ったが、口周りの痙攣が残存し、その後も効果が認められなかったため、鍼灸治療を検討した。
【初診時の状態】
柳原法の内容(40点満点)
安静時非対称:4
額のしわ寄せ:4
軽い閉眼:2
強く閉眼:2
片目つぶり:2
鼻翼を動かす:4
イーと歯をみせる:2
口をへの字にする:2
頬を膨らます:4
口笛を吹く:4
合計:30点
FaCE Scale(75点満点)
顔面の運動:9点
顔面の感覚:7点
食事摂取:7点
眼の感覚:7点
涙腺分泌:3点
社会活動:14点
合計:47点
【施術方針】
・発症から1年以上経過していることを考えると、あまり良い点数とは言えませんでした。
・後遺症である顔面部のこわばり、痙攣、疲労の軽減を目標に、表情筋への血流増加、顔面神経の過剰な興奮の抑制を目的に鍼治療を実施しました。
・さらに後遺症の悪化を予防するために、表情筋マッサージの方法を指導しました。
【施術の経過】
≪初回~3回目≫
・口周りの痙攣は1分毎に生じている。
・3回目までの鍼施術の経過はほとんど変化なし。
≪4回目≫
・来院してから1ヶ月半ほど経過し、「口周りの痙攣頻度が少し減っている感じがする?気のせいかもしれないが・・・」というコメントを頂けました。
・この時、口周りの痙攣は4分毎に生じており、初回と比べて頻度が落ち着いてきた様子でした。
・柳原法による点数も36点になり、顔面部の動きも良くなってきていた。
≪5回目≫
・「以前よりも口周りの痙攣の頻度が減っている」「最近になって少しずつ効果を実感してきた」とのコメントを頂けました。
・施術中の痙攣頻度も顕著に減っているのが確認できました。
・また、麻痺していた口周りの動きが少しみられるようになってきました。
・この時、FaCE Scaleの点数は62点となり、その他の日常生活で生じている不快感も減っているのが確認できました。
・現在も経過観察中であり、今後2回目のボトックス注射を受ける予定であるため、さらなる相乗効果も期待できます。
【施術の考察】
顔面神経麻痺に対する治療は、薬物療法やリハビリが主流です。また、顔面神経麻痺の後遺症はいったん出現すると、不可逆的に増悪して治癒することが困難になります。
後遺症の発症メカニズムには、神経過誤支配説、核過剰興奮説、接触伝導節があります。この中で、痙攣に関わる内容は、顔面神経麻痺の場合、顔面神経が損傷を受けているため、脳にある神経の核となる部分に過剰な興奮が生じることがあります。もっと簡単に言うと、切れかけの電線だと、バチッ!!とショートを起こします。このときその場所で大量の電気が通ることで、火花を散らします。損傷を受けた顔面神経も同様で、損傷部位でショートのようなことが起こり、神経に過剰興奮が生じて、痙攣が生じるとされます。鍼治療には過剰な神経の活動を抑制する働きがあるとされます。
今回の症例の場合、顔面部の表情筋への刺激、顔面神経走行部への刺激が神経と筋肉の接合部における、過剰な興奮を抑制したのではないかと考えられます。
※結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。