腰痛、両側股関節痛(椎間板性腰痛の疑い)
【患者】50代 男性
【主訴】
腰痛、両側股関節痛
【不定愁訴】
特になし
【施術回数】 9回
【通院期間】 2か月
【来院までの経過】
・年に1回ぎっくり腰を起こしており、そこから慢性的に腰痛を感じている。
・整形外科での治療を受けるも期待する効果はなく、鍼灸やマッサージも受けているが効果はあまり感じていない。
・何の誘因もなく両側の股関節にも痛みが生じ、さまざまな治療を受けても期待する効果が得られなかった。
【初診時の状態】
・腰部の可動域:正常
・腰部の動作時痛
前屈時痛、左右側屈時に左腰部痛
・股関節の可動域:内旋制限
・股関節の動作時痛
深屈曲時に前面の股関節痛
・神経学的所見
特記事項なし
・筋緊張と圧痛
多裂筋、腰方形筋、腸肋筋、中殿筋、上後腸骨棘、腸骨筋、大腿直筋
※ケンプ(-)、SLR(-)、FNS(-)、パトリック(-)、ニュートン(+)、股関節インピンジメント(+)、エリー徴候(+)
【施術方針】
・来院当初は、体幹の前屈時痛、仙腸関節障害に関する検査が陽性だったこともあり、筋・筋膜性と仙腸関節性腰痛を疑いました。
・また、両側股関節前面の痛みについては、深屈曲時に痛み、内旋制限から股関節のインピンジメントを疑いました。
・主に施術部位としては、腰殿部の筋肉、ときには刺入深度を変えながら刺激し、股関節前面の痛みから大腿直筋、腸腰筋への鍼治療を実施しました。
・その後、直後効果はみられても、症状の緩和が芳しくない中、クッション性のソファーを長時間使用したことで、ぎっくり腰を発症し、この時に椎間板性腰痛の可能性を疑いました。
【施術の経過】
≪1回目≫
筋緊張を緩和させる目的で、週1回のペースで腰殿部周辺、仙腸関節部に低周波鍼通電、股関節前面部には置鍼を実施しました。
≪2~3回目≫
鍼治療後に少し股関節周りがや若くなったような感じはあるが痛みに関しては大きな変化はありませんでした。
≪4回目≫
この時、クッション性の高いソファーを使用したことで、ぎっくり腰になりかけ、腰部の痛みがさらに強くなった。筋膜リリース等も追加するも直後効果のみで長期的な効果は認められなかった。
≪5~8回目≫
この時は、常に痛みを感じるようになり、よくなっている実感があまりないとのことでした。鍼治療の効果が認められないため、再度検査を実施したところ、症状から椎間板性腰痛の疑いがあるため、骨盤を前傾位に誘導したところ、症状の緩和が認められました。
そこから、鍼治療で周囲の筋肉を緩めた後に、骨盤の前傾位に誘導する手技を加えるようにしました。セルフケアとして、骨盤の前傾位を継続するために腰に枕を入れて少し腰をそらすようにしてもらいました。
当初は普段取らない姿勢であったため、腰部に違和感が生じたが今までにない変化であったため、本人の希望もあって骨盤の前傾位の姿勢を継続してみた。
≪9回目≫
この時、今まであった腰痛や股関節前面にあった詰まり感がなくなり、症状をまったく感じなくなったとのことでした。症状がなくなり、その後も経過が良好であったため、治療を終了しました。
【施術の考察】
当初は腰痛の問題と股関節の問題は別にあると考え、鍼灸治療を進めてきましたが、なかなか効果を上げることができず、治療の試行錯誤に時間がかかりました。柔らかいソファーを使用したことでの腰痛が増強したことをきっかけとして、椎間板性腰痛の存在を疑うことができました。椎間板性腰痛の場合、腰が前屈位になることで痛みが出現し、時には股関節痛に似た症状も引き起こします。また、特徴として、腰部をベルトで一周するように痛みが発生するのも特徴的ですが、実際の臨床ではこの症状を鑑別するのは難しく、今回は施術の中でのコミュニケーションにより引き出せた情報から導き出すことができました。さらに、骨盤前傾位を取ることで症状の緩和がみられたことも向かい風となり、症状の軽減につながりました。この症例は、当院で最も大切にしている第3水準の重要性を理解するきっかけとなった症例でした。
※結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。