左腰痛(慢性腰痛:筋・筋膜・椎間関節・仙腸関節性腰痛の疑い)
【患者】50代 男性
【主訴】
左腰痛(VAS:50㎜→10㎜)
※VASとは臨床の場で広く使用されている痛みの評価尺度です。数値が高いほど痛みの強度が強く、100㎜は「これまで経験した最も激しい痛み」、0㎜は「痛みなし」で評価されます。ここでは痛みに限らず、症状の強度を表しています。
【不定愁訴】
特になし
【施術回数】 9回
【通院期間】 2か月
【来院までの経過】
・学生時代に急性腰痛(ぎっくり腰)を発症し、ブロック注射、整骨院、鍼灸などさまざまな治療を受けたが腰痛が残存し、現在まで至る。
・昨年度から腰痛を強く感じるようになり、車から降りるとき、椅子から立ち上がる時に痛みを強く感じる。
・当院のチラシをみて、鍼治療は久しぶりに受けてみようと思い来院された。
【初診時の状態】
・腰部の可動域:前屈・後屈・側屈可動域制限(ほとんど動けていない)
・FFD(前屈位で指と床の距離):34㎝→9㎝
・腰部の動作時痛
前屈・後屈・側屈(横に倒す)時:左腰部に痛み
・神経学的所見
特記事項なし
・筋緊張と圧痛
多裂筋、最長筋、腰方形筋、PSIS(上後腸骨棘)、L5/S1棘突起間
※ケンプ(+)、パトリック(+)、ゲンスレン(+)、ニュートン(+)
【施術方針】
・体幹の前屈時には腰部にストレッチ痛、後屈時には左腰部局所に痛み、棘突起の圧痛、さらに仙腸関節の問題を確認するための検査が陽性であることから、筋膜性・椎間関節性・仙腸関節性といった複数の腰痛を併発していると疑いました。
・下肢症状はなく、坐骨神経痛を核にする検査は陰性であることから、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症は否定しました。
・まずは後屈時の痛みが最も強かったので、椎間関節と仙腸関節を中心に低周波鍼通電療法でアプローチを開始しました。
・その後、椎間関節と仙腸関節の障害による後屈時の痛みが軽減したので、筋・筋膜を中心としたアプローチに変更しました。
【施術の経過】
≪1回目≫
左腰痛VAS:50mm、痛みの感覚過敏を正常化(疼痛閾値の上昇)させる目的で、週1回のペースで腰殿部周辺、仙腸関節部には置鍼、L4/5、L5/S1の高さには、椎間関節に低周波鍼通電療法を実施しました。
施術直後は後屈時の痛みがかなり軽減したようで、施術における手ごたえを感じました。
≪2回目≫
左腰痛VASは40㎜、初診時に比べると動けるようになり、本人も動きやすさを実感していました。この時にはハムストリングスへの鍼刺激・ストレッチを追加しました。
≪3回目≫
この時には動作時での痛みが日に日に少なくなっており、腰部の可動域も拡大してきました。しかし、仕事中の痛みはまだまだあるとのことでした。この時には筋・筋膜へのアプローチを中心とした施術にシフトし、FFDも計測しました。この時のFFDは34㎝で床と指との間にはかなりの距離がありました。施術後はFFDが24㎝となり、可動域制限が少しずつ解消されてきました。
≪4~5回目≫
この時くらいから、日常生活上での不自由さが軽減しており、施術前のFFDも25㎝まで数値が下がってきました。逆に仕事中では今まで気にならなかった殿部痛が顕著にみられるようになりました。
患者様の許可を得て施術後の変化の写真を張り付けさせてもらいました。これは4回目までの経過の写真となります。
≪6回目≫
左腰痛VASが20㎜となり、動ける範囲が広がったので、日常生活で困ることがかなり減ったとのことでした。施術前FFDは24㎝で施術後は10㎝まで数値が下がってきました。
≪7~8回目≫
左腰痛VASが10㎜となり、臨床上では痛みがほとんどない状態にまで回復しました。仕事中の殿部痛もほとんどなく、右の腰痛はまったくなくなったとのことです。施術前FFDも14㎝となり、施術直後は指先が床につくほどまで柔らかくなりました。
≪9回目≫
ここからは現状維持・増進を目的としたメンテナンスに移行し、現在も継続的に施術を受けられています。施術前FFDは14㎝で施術後は9㎝となりました。FFDの数値にはその時の体調でムラがありますが、初回FFD34㎝から9㎝まで改善することができました。
【施術の考察】
1か月の治療期間の中で、鍼治療・灸頭鍼によって痛みがなくなりました。今回の鍼治療による鎮痛メカニズムは、鍼の刺入によるポリモーダル受容器の興奮、軸索反射による血流改善、さらに高位中枢に影響を与え、下降性疼痛抑制系を賦活化させたことが要因であったと考えられます。また、筋肉の滑走障害が解消されたことで、動かすときの痛みも軽減したと思われます。急性腰痛発症1日目に鍼治療の介入が行えたので、回復を速めることができた症例でした。
※結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。