左腰痛(急性腰痛:椎間関節性腰痛の疑い)
【患者】50代 男性
【主訴】
左腰痛(VAS65㎜→20㎜)
※VASとは臨床の場で広く使用されている痛みの評価尺度です。数値が高いほど痛みの強度が強く、100㎜は「これまで経験した最も激しい痛み」、0㎜は「痛みなし」で評価されます。ここでは痛みに限らず、症状の強度を表しています。
【不定愁訴】
左股関節から大腿前面にかけての痛み
【施術回数】 6回
【通院期間】 1か月
【来院までの経過】
・1週間前から原因不明の強い腰痛が出現
・痛みの性質はズキズキで、ひどいときには股関節から大腿前面にも違和感がある
・整形外科のMRI所見では異常なし
・湿布を処方されて左股関節前面の症状は徐々に緩和した
・左腰痛に関しては期待する効果はなし
【初診時の状態】
・腰部の可動域:正常
・腰部の動作時痛
後屈(後ろにそらす)・左右側屈(横に倒す)時:左腰部痛
・神経学的所見
特記事項なし
・筋緊張と圧痛
多裂筋、胸最長筋、腰腸肋筋、腰方形筋、大殿筋、L5/S1棘突起
【施術方針】
・体幹の後屈、および左右側屈時で左腰痛が出現し、前屈時での痛みなく、L5/S1のパーカッションテストにおいて、左股関節から大腿前面にかけて違和感がありました。
・下肢に神経症状もないことから急性の非特異的腰痛であり、「椎間関節性に起因するもの」と推察し、椎間関節への刺激を中心とした鍼治療を実施しました。
・また、腰の安定性に関与している多裂筋や腰方形筋の筋緊張・圧痛も強くみられることから、これらの筋肉の緊張を緩めることでさらなる治療効果が期待できると考えました。
【施術の経過】
≪1回目≫
椎間関節部に生じている痛みの感覚過敏を正常化(疼痛閾値の上昇)させる目的で、週1回のペースで、L4/L5椎間関節、L5/S1椎間関節、胸最長筋、腰腸肋筋に鍼治療で置鍼10分を行いました。
≪2回目≫
この時、腰痛のVASは40㎜にまで減少した。2診目以降は、大殿筋、腰方形筋部にも鍼を増やし、低周波鍼通電療法を実施した。
≪3回目≫
この時、腰痛のVASは50㎜となり、上昇してしまう。前回実施した低周波鍼通電療法の刺激が強く、一時的に強いだるさを起こし、症状を増悪させてしまった。その後、低周波鍼通電は中止し、以降は置鍼と患部への赤外線で対応しました。
≪4~5回目≫
睡眠時にあった股関節の前面の痛みが軽減し、腰痛のVASも25㎜、24㎜と前回より数値が下がっていました。後屈時痛や左側屈時の痛みがなくなり、5回目は初診時と比べて、「痛みの症状はかなり楽になり、以前より物を取るときにスムーズに動けるようになった」とのコメントを頂きました。
≪6回目≫
左腰痛のVASが20㎜となり、痛みはあまりに気にならなくなりました。症状が落ち着いたので、以降は経過観察となりました。
【施術の考察】
1か月の治療期間の中で、鍼治療によって痛みの強度が半分以上に減っていることがわかります。今回の鍼治療による鎮痛メカニズムは、鍼の刺入によるポリモーダル受容器の興奮、軸索反射による血流改善、さらに高位中枢に影響を与え、下降性疼痛抑制系を賦活化させたことが要因であったと考えられる。
ただ、3回目の段階で少し症状を強くしてしまった理由は、鍼の刺激を強めたことが原因であり、コミュニケーションを図りながら、刺激量を調整していく必要があると実感した症例でした。
※結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。