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​腰痛(慢性腰痛)

腰痛を訴える女性

 腰痛とは、一般的には「触知可能な最下端の肋骨と殿部の間の領域にある痛み」とされています。腰部への身体的負荷が大きい作業は腰痛の発症リスクを高め、さらに心理社会的要因(仕事への満足度や精神的ストレスなど)も慢性腰痛に関与しています。

 2019年度の国民生活基礎調査によると肩こりは女性が訴える症状第2位、男性では第1位、言わずと知れた国民病です。

 腰痛とは一つの疾患ではなく、何か原因となる疾患による症状の一つです。ひと昔前は腰痛の85%が原因不明(非特異的腰痛)とされていました。ただし近年では、山口腰痛スタディーをはじめとする報告により、しっかりと問診・検査を実施すれば、腰痛の約78%は診断可能であり、原因不明の腰痛は22%しかないことが明らかになりました。

※ただし、鍼灸・マッサージ師では腰痛の診断はできないため、理学検査をとおして病態を把握し、患者様の状態に応じた治療方針で施術を行います。


 そんな慢性腰痛に対して、腰痛の分類によって有効な治療法が異なりますので、検査をとおして担当者と相談されることをおススメします。

 ​当院のメニューでいえば後述する筋・筋膜性腰痛には「オーダーメイド手技療法(マッサージ)」、椎間関節性・椎間板性・仙腸関節性腰痛の場合は「鍼施術コース」がおススメです!

 1.腰痛の原因
 ①脊椎由来
 ②神経由来
 ③内蔵由来
 ④血管由来
 ⑤心因性などがあげられる。

※特に重篤な神経由来、内蔵由来、血管由来に関しては、鍼灸・マッサージの領域外であるため、しっかりとした検査・鑑別を行う必要があります。

 2.腰痛の分類
 重大な脊椎疾患である腰痛として、脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどがあるが、今回の分類はそれ以外の重大な腰痛ではないものをあげていきます。
 ①筋・筋膜性腰痛(約18%)
 ②椎間関節性腰痛(約22%)
 ③椎間板性腰痛(約13%)
 ④仙腸関節性腰痛(約6%)

 昔は腰痛といえば筋肉!!という固定概念がありましたが、内訳からわかるように、実は最も多いのが椎間関節性腰痛であり、筋・筋膜はその次ということが山口スタディーのデータから明らかになりました。

 3.こんな方は注意!
 以下の症状が腰痛とあわせてみられる場合は専門医による検査が必要となります!(レッドフラッグ)
 ①発症年齢が20歳未満、または55歳を超えてから発症した腰痛
 ②時間や活動性に関係ない腰痛(動作時痛がなく、夜間に痛みが出現するなど)
 ③胸部痛
 ④がん・ステロイド治療・HIV感染の既往
 ⑤栄養不良
 ⑥体重減少
 ⑦広範囲におよぶ神経症状
 ⑧構築性脊柱変形
 ⑨発熱
 
 当院では、高度な神経症状がないかどうか、大きな病気が隠れていないかどうか、問診と簡単なスクリーニング検査をとおして、施術の適応か不適応なのかを判断します。


 4.治療法
 当院では以下の慢性腰痛の分類に応じて、刺激する部位を決定しています。

 ①筋・筋膜性腰痛
 鍼・オーダーメイド手技療法(マッサージ)では、腰部の筋肉(最長筋、腸肋筋、腰方形筋、多裂筋など)、殿部の筋肉(大殿筋、中殿筋、梨状筋)、大腿後面の筋肉(ハムストリングス)などを刺激します。

 筋・筋膜性腰痛で痛みが生じる要因として以下の問題点があげられます。
・神経の圧迫
・筋内圧の上昇
・筋・筋膜の疲労、
・脊髄内の一部の神経の興奮など

 主に障害される筋肉は最長筋、腸肋筋、腰方形筋、多裂筋、大殿筋、中殿筋、梨状筋などです。筋肉への持続的な収縮に、体幹の前屈運動などが加わると筋損傷が起こりやすく、障害された筋肉の筋腱移行部周囲に圧痛がみられます。

また、姿勢の影響により筋肉の内圧は上昇し、筋血流が減少します。その結果、筋肉の阻血性の痛みが生じるようになります。そのため、上記で示した部位を施術することで、筋肉内血流を増加させ、症状の緩和を図ります。

 ②椎間関節性腰痛
 主に腰を後ろにそらした時に痛みが出るタイプの腰痛をさします。鍼施術では、障害されている椎間関節、オーダーメイド手技療法(マッサージ)では多裂筋を中心に施術します。

 椎間関節の過剰な可動性や椎間板の変性、不安定性などにより過剰な負荷が加わり、椎間関節に炎症が生じます。その結果、関節部に分布しているセンサー(自由神経終末)を介して、痛みや関連痛を引き起こします。また、椎間関節の炎症は、周囲の関節外組織にも痛みのを引き起こす可能性があります。
 関節部を刺激する必要があるため、指では刺激が不十分となりますので、鍼で深く入れて刺激する必要があります。そのため、椎間関節性腰痛の場合は、鍼施術をおススメします!

 ③椎間板性腰痛
 主に前かがみになったときに、腰部の深部に重苦しい痛みを起こすタイプの腰痛で、椎間板を支配している脊椎ー洞神経の近傍をねらって、鍼を腰に深く入れて刺激します。

 椎間板の退行性変化、椎間板の変性が炎症や痛みの発痛物質を産出することにより腰痛を発症するとされています。椎間板は、非髄節性にL1、L2の後根神経細胞による支配、交感神経由来の痛みの伝達経路があるため、大腿前外側、鼠径部に関連痛を生じることがあります。また、喫煙による椎間板の障害も原因としてあげられています。

 ④仙腸関節性腰痛
 主に仙腸関節部の障害により痛みを起こすタイプの腰痛で、鍼を関節部まで深く入れて刺激します。

 仙腸関節部への荷重異常で発症し、仙骨外縁や上後腸骨棘周囲の圧痛、鼠径部や下肢への放散痛がみられることがあります。関節内・関節集の靭帯の炎症により痛みが起こると考えられています。そのため、仙腸関節の靭帯を刺激するためには深く鍼を入れて刺激することが効果的だと考えます。

 
5.慢性腰痛に対する薬物療法のエビデンスについて
 腰痛患者は長期間症状にさらされいるため、痛みを和らげるため服薬している方も少なくない。以下にあげる薬の種類によるエビデンスを紹介します。
 ①セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):エビデンスの強さA
 ②弱オピオイド:エビデンスの強さA
 ③非ステロイド性抗炎症薬(NSAID):エビデンスの強さB
 ④アセトアミノフェン:エビデンスの強さD
 ⑤強オピオイド:エビデンスの強さD
 ⑥三環系抗うつ薬:エビデンスの強さC

 SNRIや三環系抗うつ薬は主に「うつ病」でもちられる薬物であるが慢性腰痛の場合、​脳の機能障害(ディスファンクション)も影響しているため、処方されるケースがあります。ただし、副作用が良く出るため服用には注意が必要です。また、三
環系抗うつ薬​については副作用も強く、エビデンスの強さも高くありません。

 オピオイドは鎮痛作用としては強力であるが、簡単に処方されるような薬ではありません。

 その他、よく解熱・鎮痛薬として処方されているアセトアミノフェンは、エビデンスの高さから慢性腰痛に対して効果の推定値がほとんど確信できないとされています。アメリカのガイドラインでは、アセトアミノフェンが推奨から外されています。

 以上のことから、薬物療法は万能ではなく、薬の内容によってはエビデンスの低いものもあります。

 もし、ひどい腰痛であるが薬物療法に抵抗のある方は、副作用の少ない鍼灸治療をおススメします!

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