ケース3(股関節前面の痛み)
1.患者様
50歳代、女性
2.主訴
股関節前面の痛み(VAS:60㎜)
※VASとは臨床の場で広く使用されている痛みの評価尺度です。数値が高いほど痛みの強度が強く、100㎜は「これまで経験した最も激しい痛み」、0㎜は「痛みなし」で評価されます。この数値は鍼灸院に来院された際、その時の痛みの状態を表しています。
3.発症してからの経過
・半年ほど前から股関節に痛みを感じるようになった
・痛みは徐々に強くなってきている
・しゃがんだ時に違和感を強く感じ、素早く動けない
※特に作業をする時に痛みを感じ、素早く動けないことに困っている
4.初診時の状態
①股関節の動作時痛
股関節屈曲時、内旋時に痛み
②神経学的所見
特記事項なし
③筋緊張と圧痛
腸骨筋、中・小殿筋、縫工筋、長内転筋
⑤徒手検査
パトリック(+)、エリー(-)、トレンデレンブルグ(-)、トーマス(-)
5.患者様の状態(病態把握)
・股関節の屈曲・内旋時に痛み、パトリックテストが陽性であることから股関節由来の痛みの可能性がある。
・股関節前面の安定性に関与している腸骨筋部への圧痛が最も強い。
6.治療方針
股関節前面の痛みを軽減・循環改善を目的で、週2回のペースで腸骨筋、小・中殿筋を中心に置鍼・低周波鍼通電療法を実施した。評価方法は股関節前面の痛みに対して、VASを治療前後に実施して評価した。
7.経過
初診時、治療前はVASが60㎜で、治療後の痛みは大きな変化はなし。2診目は治療前のVAS50㎜で、治療後はVAS20㎜に緩和した。治療前の問診では、「股関節の痛みについて、前回の治療後は調子が良かったけど、数日で元に戻った。でも、しゃがむ動作の痛みは気にならなくなっていた。」とのこと。治療後は「しゃがむ動作の痛みが軽くなった」とのコメントを頂いた。現在も経過観察中である。
8.施術者からの感想
今回の症例は関節由来の痛みが疑われ、初診時の鍼治療は直後効果として、かなり微妙な反応でした。しかし、2診目で鍼の刺激量を増やしたことで顕著な効果がみられました。
鍼の刺激量を調節することはとても難しく、刺激が強すぎると逆に症状を悪化させるケースも珍しくありません。
また、人によって鍼刺激は直後の効果はなかったけど、二日後に痛みが緩和したというケースもよく聞く話です。
初めて受ける方はとくに最初の効果が感じられないと、鍼は効果がないと思ってしまうかもですが、このように徐々に刺激量を調節することで効果を実感するケースもあります。
なので、初めて鍼治療を受ける方は、最初は3回ほど受けてみられてから、効果の有無を判断していただくのが良いと思われます。